2021年オープンキャンパス(青木・伊藤(康)研究室)
リモートセンシング

はじめに

リモートセンシングとは,航空機や人工衛星などを使って遠隔から地表面を観測する技術です.遠くから地表を精密に把握するためには,レーダが使われています.ここでは,本研究室が取り組んでいる合成開口レーダを用いた地表解析に関する研究について説明します.

合成開口レーダ

カメラで撮影された写真(空撮写真)もリモートセンシングで使われますが,レーダは,リモートセンシングに有用な特徴を持っています.カメラは日中しか画像を撮影することができませんが,レーダは昼夜関係なく画像を撮影することができます.カメラは雲や雨のときに画像を撮影することができませんが,レーダは雲などを透過するので図1のように噴火している火山も撮影することができます.そのため,地震や火山噴火などの災害時にレーダによる観測が重要になります.レーダの1つに合成開口レーダ (Synthetic Aperture Radar: SAR) があります.人工衛星や航空機に搭載されて地表面を観測するレーダです.レーダ1つだけでは分解能が低い問題がありますが,SARによる観測を航路上に複数の仮想的なアンテナを並べたものと仮定することで,あたかも大きなアンテナを使って観測したかのように画像化することで分解能を向上させています.

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図 1:カメラで撮影された画像(左)と合成開口レーダで撮影された画像(右)

Pi-SAR2

Pi-SAR2 は,情報通信研究機構 (NICT) が開発した航空機搭載型合成開口レーダです.図2のように航空機の羽の下に搭載されます.東日本大震災,御嶽山の噴火,熊本地震など大規模な災害が起こったときに状況確認や減災などのためにPi-SAR2が使われています.本研究室では,NICTとの共同研究において,Pi-SAR2で撮影されたSAR画像の解析を行っています.

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図 2:NISTが開発した航空機搭載型合成開口レーダ Pi-SAR2

3次元計測

複数の航路で撮影されたSAR画像があれば,ステレオビジョンを使って地表面の3次元形状を計測することができます.ただし,ステレオビジョンは,カメラで撮影された画像を基本としているため,レーダで撮影された画像にそのまま適用することができません.カメラと同様に3次元空間を2次元空間に投影するモデルが必要となります.図3がSAR画像の投影モデルを簡単に説明したものです.航空機のアンテナから対象 $P$ にレーダが照射されます.対象 $P$ で反射されたレーダを航空機のアンテナで受信します.そのときの送受信の時間に応じてSAR画像が生成されます.画像の投影位置は,図3に示すように,アンテナを中心とする円と$XY$平面の交点となります.見てわかるように,投影位置が少し前にずれます.これは,フォアショートニングというレーダ画像特有の現象です.フォアショートニングを考慮した投影モデルを考えてステレオビジョンで3次元形状を計測する必要があります.手法の詳細は,文献 [1] や文献 [2] を参照して下さい.図4は,東北大学工学部の青葉山キャンパス周辺のSAR画像から3次元計測をした結果です.わかりにくいかもしれませんが,正しく計測できています.

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図 3:SAR画像の投影モデル
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図 4:青葉山キャンパス周辺の3次元計測の結果(左:SAR画像,右:計測結果)

断層観測

もう1つの例は,断層の観測です.ステレオビジョンと似たような手法を使っていますが,時期の異なるSAR画像間の移動量を高精度に調べることができれば,地震などで生じた断層のずれを計測することができます.例えば,2016年に起こった熊本地震で生じた断層ずれをSAR画像から見つけることができます.このときは,地震前後で4ヶ月ほどの時間差があるので,画像の見え方が異なっていましたが,断層を見つけることができました.図5は,熊本地震後に撮影したSAR画像と断層ずれの検出結果です.SAR画像上に実際のずれ量を記載していますが,1mもないずれです.検出結果を見てわかるように,そのずれをSAR画像のみから検出できています.手法の詳細については文献 [3] を参照して下さい.

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図 5:熊本地震で生じた断層ずれの検出結果(左:SAR画像,右:検出結果)

まとめ

本研究室で取り組んでいるレーダ画像を使ったリモートセンシングについて紹介しました.本研究では,これまでのリモートセンシング技術に対してコンピュータビジョンの技術を融合するという新しい試みを行っています.現在,NICTが新しい航空機SARシステムを開発しています.分解能などが向上する予定なので,今までにない高精度な解析を行うことができると期待されています.

参考文献

  1. D. Maruki et al., "Stereo radargrammetry using airborne SAR images without GCP," Proc. IEEE Int'l Conf. Image Processing, no. COI-P2.5, pp. 1-5, September 2015. [PDF]
  2. K. Insfran et al., “Accurate 3D measurement from two SAR images without prior knowledge of scene," Proc. IEEE Int'l Geoscience and Remote Sensing Symp., pp. 4814-4817, July 2021. [PDF]
  3. H. Imai et al., “A method for observing seismic ground deformation from airborne SAR images," Proc. IEEE Int'l Geoscience and Remote Sensing Symp., pp. 1506-1509, July 2019. [PDF]