2021年オープンキャンパス(青木・伊藤(康)研究室)
医用画像処理

はじめに

科学技術の発展に伴って,医療現場では,X線,CT,MRIなどで撮像された画像による診断が一般的になっています.例えば,整形外科であればレントゲン写真を撮りますし,内科や外科であればCTやMRIを撮ります.病院では,毎日大量の医用画像が撮られているので,これらの医用画像をコンピュータで解析することで,医師による診断を支援する研究が進んでいます.ここでは,本研究室が取り組んでいる脳MRI画像解析と超音波画像解析の研究について説明します.

脳MRI画像

脳MRI画像は,脳の状態を診断するために使われています.撮像条件を変えることでいろいろな種類のMRI画像を撮像することができますが,ここでは,T1強調画像と呼ばれる脳の形態を診断する際に使われる画像に着目します.図1のようにT1強調画像は,3つの脳組織を確認することができます.灰色が灰白質,白色が白質,黒色が脳脊髄液です.脳画像解析では,これらの脳組織の形状や体積を使って行われています.

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図 1:脳のT1強調画像と脳組織

脳形態の加齢による萎縮

脳形態は,加齢によって萎縮していることが知られています.アルツハイマー病などの脳疾患でも萎縮しますが,健常者でも脳が萎縮します.図2は,加齢によって各脳組織の体積が変化していることを示すグラフと実際のT1強調画像です.加齢に伴って灰白質が減少し,脳脊髄液が増加しています.T1強調画像でも脳室が拡大するとともに,脳のしわが広がっていることがわかります.このように,脳の形態変化と年齢には強い関係性があります.

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図 2:加齢による脳組織の体積変化と年齢による脳形態の違い

年齢推定

本研究室では,脳の形態変化と年齢に強い関係性があることを利用して,T1強調画像から実年齢を推定する手法を提案しています.当初は,各脳組織から求めた体積値を使って年齢を推定していました.このときは,推定誤差が約4歳でした(文献 [1]).T1強調画像のようなボリュームデータに対してもディープラーニングが使えるようになり,図3のような3D CNNを用いた手法を提案しました(文献 [2]).CNNでは,T1強調画像と年齢の関係のみを利用しているだけで,医学的な知識を利用していません.それにも関わらず,3D CNNを用いた最新の手法では,推定誤差が約3歳まで低下しました.正常加齢による形態変化とアルツハイマー病などの脳疾患における形態変化に違いがあることより,現在は,アルツハイマー病診断支援に関する研究を進めています.

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図 3:3D CNNを用いた年齢推定ネットワーク

脳の疾患の1つであるアルツハイマー病 (Alzheimer's Disease: AD) を疾病すると,脳の萎縮により記憶障害などの症状が現れます.最近では,早期発見ができれば,投薬治療により進行を抑えることができるようになってきました.そのため,アルツハイマー病になる前の軽度認知障害 (Mild Cognitive Impairment: MCI) の段階で見つける必要があります.医師でも健常ともADとも取れないような難しい状態です.年齢推定で説明した3D CNNを使うことでMCIを見つけることができますが,十分な判別精度が得られていません.その理由は,医師の総合的な判断によって学習データに付けられているラベルに少なからず誤りが含まれているからです.アルツハイマー病の診断では,問診,認知機能テスト,画像診断などが行われます.この中で,認知機能テストは複数あり,医師によって異なるテストが行われています.このことを利用して,複数の認知機能テストの結果からあいまいなラベル(ソフトラベル)を作ることで,学習の精度を向上させる手法を検討しています.詳細については,文献 [3] を参照して下さい.

超音波画像

超音波画像診断は,レントゲン,CT,MRIなどと異なり,装置が小型であるだけでなく,非侵襲であるため,患者に負担をかけない利点があります.超音波プローブの設定にもよりますが,超音波は,体表から数cmの深さしか画像化できません.CTやMRIなどのように体内の詳細な診断に使用することはできませんが,緊急時などのように迅速な診断をする必要がある場面や簡易的に診断したい場面で重宝されます.3次元超音波プローブを使うことで3次元超音波画像を取得することができますが,特殊な装置が必要なだけではなく,取得できる範囲が限定的です.超音波プローブで走査した範囲の3次元超音波画像を得ることができれば,超音波診断装置の新しい利点を生み出すことになります.本研究室では,超音波画像から3次元のボリュームデータを再構成する手法を検討しています.

超音波プローブ・カメラシステム

3次元超音波画像は,超音波プローブで走査(スキャン)した位置に超音波画像を並べ,ボリュームレンダリングすることで簡単に作成することができます.このときに重要になるのが超音波プローブの走査位置を正確に求めることです.磁気センサやマーカを利用する方法が提案されていましたが,超音波診断装置の利便性を損なってしまいます.そこで,図4のように,超音波プローブにカメラを取り付けた超音波プローブ・カメラシステムを開発しました.超音波プローブで患部を走査しつつ,体表をカメラで撮影します.多視点ステレオの手法の1つであるStructure from Motion (SfM) を使うことで,体表の3次元形状を復元しつつ,カメラの位置姿勢を推定することができます.動画1は,腕をスキャンして得られたカメラ画像からカメラ位置と体表の形状を復元した結果です.このカメラ位置を使うことで3次元超音波画像を作成することができます.手法の詳細については,文献 [4] を参照して下さい.

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図 4:超音波プローブ・カメラシステム
動画 1:超音波プローブ・カメラシステムを使って腕を走査した結果です.上の四角がカメラ位置を示し,下の点群が腕の形状を示しています.

ディープラーニングを用いた3次元超音波画像の再構成

先ほどのシステムでは,超音波プローブにカメラを取り付ける必要があるので,一手間かかります.そこで,ディープラーニングを用いて超音波画像のみから3次元超音波画像の再構成する研究が進められています.ディープラーニングを使うことで精度が少し落ちますが,超音波プローブの位置姿勢を推定し,3次元超音波画像を再構成することができます.現在までの取り組みは,文献 [5] を参照して下さい.速い動きや大きい動きに対応することが課題となっていますが,ゆっくりとした動きであれば十分な精度であることを確認しています.理想的な条件下であれば,図5のような3次元超音波画像を得ることができます.

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図 5:すねの3次元超音波画像

まとめ

簡単ではありますが,本研究室で取り組んでいる医用画像処理の研究について紹介しました.病院などでの診断において医用画像の利用が基本となっているため,医師の診断を支援するためのシステムの整備が課題となっています.医用画像処理は,医学と工学の両方の知識が必要となる融合領域です.工学や情報科学の知識を使って医師が抱えている多くの課題を解決できる可能性があります.本研究室では,医師にフィードバックできるような医用画像処理の研究を目指しています.

参考文献

  1. C. Kondo et al., "Age estimation method using brain local features for T1-weighted images," Proc. Annual Int'l Conf. IEEE Engineering in Medicine and Biology Society, pp. 666-669, August 2015. [PDF]
  2. M. Ueda et al., "An age estimation method using 3D-CNN from brain MRI images," Proc. Int'l Symp. Biomedical Imaging, pp. 380-383, April 2019. [PDF]
  3. 遠藤大樹ほか, "畳み込みニューラルネットワークと認知機能テストを用いたアルツハイマー病鑑別," 第24回 画像の認識・理解シンポジウム, July 2021. [PDF]
  4. K. Ito et al., "A probe-camera system for 3D ultrasound image reconstruction," Proc. Int'l Workshop on Point-of-Care Ultrasound (Lecture Notes in Computer Science, Vol. 10549), pp. 129-137, September 2017. [PDF]
  5. K. Miura et al., "Localizing 2D ultrasound probe from ultrasound image sequences using deep learning for volume reconstruction," Proc. Advances in Simplifying Medical UltraSound (MICCAI 2020 Workshops), pp. 97--105, October 2020. [PDF]